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出社しているのに力が出ない。健康経営の「見えないコスト」の話をします

社員は、今日も元気に出社しています。

……本当に「元気」でしょうか。

席には座っている。パソコンも開いている。でも、頭の半分は腰の鈍い痛みに、もう半分は昨日の上司のひと言に持っていかれている。こういう状態をプレゼンティーイズムと呼びます(出社しているのに、力が出せていない状態のことです)。

やっかいなのは、これがコストとして見えないことですね。休職なら「休んだ」と分かる。離職なら「辞めた」と分かる。でもこれは、席に座ったまま、静かに会社の生産性を削っていきます。ある試算では、企業の健康関連コストの中で最も大きいのは、医療費でも欠勤でもなく、このプレゼンティーイズムだと言われています。いちばん大きな穴は、いちばん見えにくい所に空いている。嫌なものです。

目次

「体は総務、心は人事」——でも、体の中では分業していません

多くの会社では、腰痛対策は安全衛生の担当、メンタル対策は人事や産業医の担当と、きれいに分かれています。組織図としては立派です。

ただ、困ったことに、社員の体の中では、心と体はまったく分業していません。

前かがみのデスクワークが続くと呼吸が浅くなり、自律神経が緊張して、なんとなく気分が沈む。逆に、強いストレスがかかると肩や首がガチガチに固まり、頭痛や腰痛が出る。心の問題が体に、体の問題が心に、行ったり来たりしているわけです。

私は理学療法士(体の専門家)と公認心理師(心の専門家)の両方の資格を持って、約30年、人の心と体の現場を見てきました。珍しい組み合わせだとよく言われますが、狙って珍しくなったわけではありません。現場にいると、心と体を切り分けられない場面のほうが圧倒的に多かった。それだけの話です。

ついでに白状すると、私自身、パワハラ気質の上司の下で働いていた時期があります。あの頃は、月曜の朝になると決まって体が重かった。あれは気のせいではなく、心の負担が体に出ていたのだと、今なら専門家として説明できます(当時は説明できず、ただ重かったです)。

心と体を「同時に」見ると、打ち手が変わる

実務に落とせる視点を、3つだけ紹介します。

① 気分は「姿勢」から変える

気分を変えるのに、いきなり心へ踏み込む必要はありません。1時間に一度立ち上がる、肩を回す、深く息を吐く。たったこれだけで自律神経の緊張がゆるみ、頭がクリアになります。「メンタルヘルス研修です」と言うと現場は身構えますが、「体操しましょう」なら動いてくれる。心のケアは、体の入口から始めるのがコツです。

② 長引く腰痛は「不安」も一緒に診る

長引く腰痛の多くには、心理的な要因が絡んでいます。「動かしたらまた痛むのでは」という不安が体をこわばらせ、痛みをさらに長引かせる。ストレッチだけでも、面談だけでも解けません。両方から同時にほぐして、はじめて抜け出せます。腰は正直です。下手をすると、本人の口より正直です。

③ 頑張らせる前に「回復」を仕組みにする

頑張り続けられる人はいません(私も無理です。天気の良い日は山や川に逃げたくなります)。適度な運動習慣は、体力だけでなくストレス耐性も底上げしてくれます。ここで大事なのは「健康になれ」と正論で迫らないこと。私は学生時代、ある依存的な習慣を自力でやめた経験がありますが、人の行動は正論では変わりません。「これをやると調子が良くなる」と体で実感したときだけ、変わります。だから運動施策は、義務ではなく「楽しさ」から設計します。

見えないコストは、見える人にしか塞げない

「なんとなく元気がない」「あの部署だけ空気が重い」。その曖昧なサインの奥に、体の疲労があるのか、心の負担があるのか。両方の目で見分けられるかどうかで、施策の効き方は大きく変わります。

ここまで読んで「うちは、どこに穴が空いているんだろう」と少しでも感じた方。それはもう良い兆しです。多くの会社は、穴の存在にすら気づいていませんから。一度しかない会社経営です。どうせなら、社員も経営者も元気なほうがいい。健康で働けることが、何よりの財産だと私は思っています(便秘で動けなくなった経験のある人間が言うのですから、間違いありません)。

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