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理学療法士が教える、デスクワーカーが腰を痛めない3つのポイント

「腰が痛いので、辞めます」。

医療・介護の現場で約30年働いてきた私は、この退職理由を数えきれないほど聞いてきました。介護の世界では、腰痛は誰もが知る職業病。周りもみんな腰を痛めているので、「腰で辞める」と堂々と言えるのです(堂々と言えることが良いことかどうかは、また別の話ですが)。

ところが、一般企業では様子が違います。同じように腰を痛めていても、退職理由はこうなります。——「一身上の都合です」。

つまり、腰痛は業界を問わず人を辞めさせています。違うのは、表に出るか、出ないかだけ。そして表に出ない会社ほど、経営者は本当の退職理由に気づけないまま、また次の人を失っていきます。

目次

なぜ一般企業では、腰痛が「静かな退職理由」になるのか

国の調査でも、腰痛は日本人の自覚症状のトップクラス。業界を問わず、働く人の多くが何かしらの痛みを抱えています。それなのに一般企業で腰痛が表に出てこないのは、言い出しにくいからです。

「腰が痛い」と申告すれば、「自己管理がなっていない」と思われないか。仕事を外されないか。歳のせいだと片付けられないか。——そう考えて、多くの人は我慢を選びます。特に、責任感の強い40代以上の中堅層ほど我慢します。

これは約30年現場を見てきた私の肌感覚ですが、医療・介護のように体の不調を口に出しやすい職場に比べて、男性の多い職場ほど「健康の話は弱み」という空気が根強い気がします。弱みを見せられない職場では、不調は地下に潜るのです。

そして我慢は、いつか限界を迎えます。限界を迎えた人は、会社に相談するのではなく、退職を決めてから報告に来ます。経営者には「突然辞めた」ように見えますが、体の中では何年も前から準備が進んでいたわけです。

ちなみに私は理学療法士(体の専門家)と公認心理師(心の専門家)の両方の資格を持っていますが、身体の専門家である私自身、健康診断の数値に一喜一憂しています(専門家だから無敵、ということは残念ながらありません)。だからこそ言えます。不調は、誰にでも、静かにやってくる。会社が仕組みで受け止めるしかないのです。

理学療法士が現場で伝えている3つのポイント

では、何をすればいいか。難しい設備投資の話ではありません。今日から使える視点を3つだけ。

① 「正しい姿勢」を探すより、「姿勢を変える回数」を増やす

意外に思われるかもしれませんが、腰にとって最大の敵は「悪い姿勢」ではなく、「同じ姿勢」です。どんなに良い椅子に座っても、2時間動かなければ腰は悲鳴を上げます。

デスクワークの正しい座り方の目安(顎を引く・深く座る・膝は約90度・足裏を床につける・モニター上端は目線の高さ)

よく、こんな図を見かけますよね。顎を引いて、深く座って背筋を伸ばし、膝は約90度、足の裏は地面につける——いわゆる「正しい座り姿勢」です。

まじめな方ほど、この図を見て「よし、この姿勢を一日中キープするぞ」と頑張ってしまいます。実は、これが落とし穴です。どんなに正しい姿勢でも、固めたままでは腰の負担になります。良い姿勢を保とうとして体をこわばらせ、かえって肩や腰を痛めている人を、私は現場で何人も見てきました(まじめさが裏目に出るのは、切ないものです)。

この図の本当の使い方は、椅子と机の高さを自分の体に合わせるときの「目安」です。膝が約90度になる椅子の高さ、足裏が床につく位置、自然に画面が見える机の高さ——環境を合わせるための基準であって、一日中固定するための「型」ではありません。

環境を合わせたら、あとはこまめに姿勢を変えること。目安は、1時間に1回立ち上がることです。コピーを取りに行く、お茶を入れる、何でも構いません。高級な椅子を買う前に、まず「立つ回数」。こちらは無料です。

② 持ち上げるのは「腰」ではなく「股関節」

荷物の正しい持ち上げ方(腰から曲げるのはNG、股関節から曲げて膝を軽く曲げ荷物を体に近づける)

現場作業のある会社なら、これだけは全員に伝えてください。荷物を持ち上げるとき、背中を丸めて腰から曲げるのではなく、お尻を後ろに引いて股関節から曲げる。膝を軽く曲げ、荷物を体に近づけて持つ。

たったこれだけで、腰への負担は大きく変わります。私はスキーやマラソンをやりますが、体の使い方ひとつで疲れ方がまるで違うことを、遊びの中で身をもって学びました(遊びも仕事の役に立つのです。そういうことにしておいてください)。

③ 長引く痛みには、「不安」という燃料が注がれている

ここが、体だけを見る専門家との違いです。3ヶ月以上続く腰痛の多くには、「また痛くなるのでは」「この先ずっとこのままでは」という不安が絡んでいます。不安は体をこわばらせ、こわばりが痛みを長引かせる。痛みが不安を育てる。この悪循環です。

だから慢性的な腰痛対策には、ストレッチと同じくらい、「安心して言える・休める職場」が効きます。腰痛対策の最後のピースは、実は人間関係だったりするのです。

会社にできるのは「言える仕組み」をつくること

まとめると、会社がやるべきことは2つです。

ひとつ、身体の不調を把握する仕組みを持つこと。年1回の健康診断だけでは、腰痛や肩こりは拾えません。簡単なアンケートでも、面談での一言でも構いません。「腰、大丈夫?」と聞ける文化がある会社は、それだけで一歩先を行っています。

ふたつ、我慢させない環境をつくること。姿勢を変えられる働き方、負担の少ない作業手順、そして「痛い」と言っても評価が下がらない空気。

健康で働けることは、従業員にとっても会社にとっても、何よりの財産です。体の声は正直です。無視し続ければ退職届になり、耳を傾ければ定着率になる。どうせなら、退職届になる前に聞きたいものですね。

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