「先週また、若い子が辞めた。3ヶ月も経たないうちに」。
月曜の朝、こんな言葉が頭をよぎる経営者の方は、少なくないと思います。採用にお金と手間をかけて、やっと入ってくれた若手が、あっという間に去っていく。残った中堅にしわ寄せがいって、その人まで疲れていく。——本当に、こたえますよね。
こういうとき、つい出てくる言葉があります。「最近の若い者は、根性がない」。気持ちは、痛いほど分かります。ですが、今日はあえて、その解釈に待ったをかけさせてください。
若手がすぐ辞めるのは、根性がないからではありません。彼らは、いちばん早く「危険」を察知して、逃げているだけかもしれないのです。
若手は、ベテランより「壊れる予感」に敏感です
約30年、人の心と体の現場を見てきて、私が感じていることがあります。それは、若い人ほど、職場の「壊れやすさ」を早く嗅ぎ取るということです。
ベテランは、我慢します。良くも悪くも、耐える力がある。「まあ、こんなものだ」と自分に言い聞かせて、腰を痛めても、心がすり減っても、限界が来るまで働き続けます。そして、ある日、静かに壊れて辞めていく。
一方、若手は違います。「この会社にいたら、自分は消耗する」と感じたら、壊れる前に見切りをつけて、去っていく。判断が早いのです。これを「根性がない」と切り捨てるのは簡単ですが、見方を変えれば、彼らは、危険を察知するセンサーが、まだ鈍っていないのだとも言えます。
つまり、若手の早期離職は、職場に何か問題があるとき、最も早く鳴る警報なのです。「最近の若者は」で片付けてしまうと、いちばん早く鳴ってくれた警報を、自分の手で止めていることになります。次に鳴るのは、もっと深刻な形——中堅の休職や、ベテランの突然の退職かもしれません。
では、若手は「何」を察知して辞めるのか
若手が早期に離職する理由は、給与そのものであることは、実はそれほど多くありません。もっと手前の、日々の小さな体験の積み重ねです。具体的には、こんなところです。
ひとつは、入って最初の「放置」。何を聞いていいか分からない、聞ける相手もいない、とりあえず見て覚えろと言われる。この最初のつまずきで、「この会社は、人を育てる気がないのかもしれない」と感じてしまう。
もうひとつは、相談できない空気。困っていても「こんなこと聞いていいのか」とためらう。ミスをすると責められて終わり。質問が歓迎されない。——若い人は、この空気にとても敏感です。安心して分からないと言えない職場は、彼らにとって「危険な職場」なのです。
そして、先輩たちの疲れた顔。数年上の先輩が、いつも疲れていて、余裕がなくて、しんどそう。それを見た若手は、こう考えます。「数年後の自分が、あれか」。未来の自分の姿が、そこに見えてしまう。これは、どんな採用パンフレットの言葉より雄弁です。
今日から、コストゼロでできる3つのこと
難しいことは要りません。お金もかかりません。まずは3つだけ。
① 辞めた若手の「本当の理由」を、辞めた後に聞く
在職中の面談では、若手は本音を言いません。角が立つのが分かっているからです。だから、辞めて1〜2ヶ月経ってから、利害がなくなった状態で、そっと聞いてみてください。「何かうちに、改善できるところはあったかな」と。責める気配がなければ、意外と正直に教えてくれます。ここで得られる本音こそ、次の一人を失わないための、いちばん貴重な情報です。
② 入社「最初の3ヶ月」に、意識して目をかける
早期離職の多くは、最初の数ヶ月で心が決まっています。この期間だけでいいので、「困っていることはないか」を、誰かが意識して声をかける。放置しない。それだけで、「この会社は自分を気にかけてくれる」という感覚が芽生えます。特別な研修より、この地道な一声のほうが効きます。
③ 「分からないことは、聞いていい」と、最初に言葉で伝える
当たり前に思えて、案外できていないのがこれです。若手は「こんなことを聞いたら呆れられる」で詰まっています。だから、入ってきた日に、はっきり言葉で伝えてください。「分からないのが当たり前だから、遠慮なく聞いていい」と。相談は、してもいいと分かって、はじめてできるものです。空気で察してもらうのを待っていては、若手は動けません。
白状すると、私自身、若い頃はまったく質問できない人間でした。分からないことを分からないと言えず、一人で抱えては空回りしていました。あのとき「聞いていいよ」の一言があれば、ずいぶん違ったと思います。だからこそ、この一言の効き目を、身をもって知っています。
目指すのは、若手を「引き止める」ことではありません
ここまで読んで、「要するに、若手を辞めさせない工夫をしろということか」と思われたかもしれません。少し違います。
私が本当にお伝えしたいのは、若手が「この会社にいても、壊れない」と感じられる職場をつくることです。引き止めるのではなく、壊れる原因をなくす。そうすれば、若手は自然と残ります。そして、もし数年後、力をつけた彼が「次のステージに挑戦したい」と巣立っていったとしても、それは失敗ではありません。「あの会社で育ててもらった」と語る若者は、いずれ御社に、次の人を連れてきてくれます。
若手の早期離職という警報は、責めるためのものではなく、職場をより良くするための合図です。この考え方については、こちらの記事で詳しくお話ししています。
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おわりに
「また若い子が辞めた」。その言葉の裏で、あなたの会社は、いちばん早い警報を受け取っています。それを「根性がない」で消してしまうか、「何かサインがあったのかもしれない」と受け止めるか。——この差が、一年後、二年後の会社を、静かに、しかし確実に分けていきます。
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